東川町の自然景観が一目で気に入り、
土地の購入を即決。

大雪山国立公園の麓に位置し、「写真の町」としても知られる東川町。 豊かな自然と美しい田園風景が広がり、町をあげて写真映りのいいまちづくりに取り組んでいます。町並みを形成する住宅の景観にも独自のルールが定められ、2022年12月に完成したこの家の三角屋根も大雪山との調和が図られたものです。

オーナーのNさんご夫婦は長崎県の離島にも住まいを持ち、ここ東川町との2拠点生活を楽しんでいます。ご主人はリモートワークを中心としながら全国各地への出張も多く、数年前にはじめて東川町を訪れたとき雄大な自然環境に魅せられたのだといいます。その際、現地の人にこの場所を案内されすぐに土地の購入を決めました。住むところを選んで仕事ができる恵まれた職場環境も決断を後押ししました。「海のきれいな長崎と、雪の降る東川町。季節のいいときに行ったり来たりしながら暮らすのもいいかなと。4年前までは東京にいたので、今度は日本の端と端で異なる文化を楽しみたい。そんな人生設計を描いたのです」。

北海道に家を建てるなら北国の気候風土に精通した地元の建築家がいいと、複数のウェブサイトや作品群を見て、最終的に決めたのが札幌のTAO建築設計・川村弥恵子さんでした。ここでどう生きるかという根底の部分を理解し、住まいづくりを通して人生の歓びに昇華させてくれる人。探していたのは、そんな建築家だったのです。

北側正面は開口部をできるだけ小さく抑えたどこかストイックな表情に、南に向いた田園側はトールガラスの大きな窓が開放的な暮らしをイメージさせる

窓に映る空・月・星。
田園風景が運ぶ、四季折々の美しさ。

リビングの南側に広がるのは、胸のすくような田園風景。北海道屈指の米どころ東川町らしい景観を四季の移ろいとともに身近に楽しむことができます。田植えの後の空を映す水田の美しさ、夏の青田から黄金色に輝く秋の稲穂、ずっと変わらないであろう折々の景色が非日常へと誘い込みます。「冬にはあたり一面、真っ白な雪原に変わりとてもロマンチック。キツネの足跡が点々とついていることもあるんですよ」と奥さまは声を弾ませます。床から天井まで届くダイナミックな窓が映し出すのは、まさにファンタジーの世界。三角屋根を活かした最大6.6mの天井高を持つ室内は開放感にあふれ、色彩豊かな外の景色が主役とばかりに空間全体を包む塗り壁の白さは、どこか静謐な空気をたたえています。

施工を担当した橋本川島コーポレーション（HKハウス）はこれまでにも幾度となくTAO建築設計と組んだ実績があり、呼吸もぴったり。こだわりの詰まった建築家住宅を手がけるビルダーとしての信頼感はもちろん、旭川に本社を置くことから現場へのフットワークも安心です。長崎から工事の進捗を見守っていたNさんご夫婦は、常にメールと写真で状況が伝えられまったく不安はなかったといいます。「何度か現場にも足を運びましたが、棟梁と川村さんのやり取りを見ているのがおもしろくて。窓枠の収め方や塗壁の刷毛跡まで、こんなに細かいところにまで気を配るんだと興味津々でした。その結果がこの空間だと思うと納得です」。

果てしなく広がる空を背景に、広大な田園風景と遠くの山並みが描くスカイライン。雄大な景観を余すところなく呼び込む大開口が、住空間をドラマチックに仕立てている。光の陰影を繊細に映す塗り壁やナラのフローリングも上質な雰囲気を演出

薪ストーブにミストサウナで、北国の生活を満喫。

玄関からまっすぐ伸びる土間空間はそのままファイヤースペースに続き、薪ストーブの赤い炎が暖かく迎えてくれます。天井を貫くようにすっくと伸びる煙突が存在感を放ち、空間をスケール豊かに演出。仕切りが少なくこれだけ開放的なつくりでありながら、奥さまが「冬もびっくりするほど暖かい」と驚くほど、冷気や寒さを感じることなく快適です。

玄関を入ると、すぐさま薪ストーブが迎えてくれる。その背後には高い空と四季折々に表情を変える田園風景が控え、訪れる人を瞬時に北国のロマンへと誘い込む

玄関ホールから垂直に建物を貫く裏動線。正面突き当たりはサウナやバス、洗面台などを配した水回り、右手にはクロークやライトコート、ランドリーが収められ、左手の光がもれる開口はリビングへ通じている

薪ストーブの反対側から見た玄関ホール

薪ストーブの長い煙突が天井の高いリビング空間によく映える。ダイニングテーブルの後ろから水回りに出入りできる動線計画も快適

ホームパーティの際はゲストといっしょにワイワイつくったり食べたりが楽しめるオープンなスタイルがお気に入り

外の風景に癒やされながら料理ができるオリジナルデザインのキッチン。キッチンの床は15cm低く設定され、ダイニングテーブルと天板の高さを備えている

土間の手前を右に折れると玄関収納やクローク、明かり取りのための小さな中庭、水回りを集約させた裏動線が設けられ、ひたすらくつろぐためのリビングと完全にセパレートされています。長い廊下の突き当たりにはミストサウナを備えたバスルームがあり、タイルの床をのぞけばオールモールテックスで仕上げられています。防水性が高く手入れが容易であるのみならず、落ち着いたマットなグレーは空間全体にクールな印象を与え、バスルームをホテルライクな特別な場に。東川町は大雪山の伏流水を生活の水として利用しており、天然水で沸かしたお湯は気分も上々。家づくりでもっとも「お風呂」にこだわったご主人は、サウナといっしょに毎日のように長風呂を楽しんでいるといいます。

このまちに来てから夕方になると夫婦でジョギングする機会も増えました。大き空に広がる山の稜線が美しく、毎日違う景色を見せてくれる。東川町での暮らしは人生に新しい彩りを添え、そんなおふたりのライフスタイルをこの家が心地よくサポートしています。

2階主寝室にも景色を映す大開口。朝の目覚めも爽やかだ

ご主人がリモートワークに活用している書斎。フリールームに続く廊下の正面は1階の土間空間とつながる吹き抜けに

フリールームの一角に設けられたデスクコーナー。デスク正面は1階水回りの中心につくられたライトコート

オールモールテックス仕上げのバスルーム。目の前の田園風景を眺めながらの入浴は格別

サウナ室を挟んでトイレと洗面台。この空間もモールテックスで仕上げ、バスルームとの一体感を大切に

コンパクトながらもゆったり汗を流せるミストサウナ

Point 設計のポイント
●東川町の景観条例に基づき、大雪の山並みと調和させた三角屋根のモダンな外観。
●敷地の外に広がる田園風景と雄大な山並みを取り込む大きな開口部。
●三角屋根を活かした最大6.6mの天井高さを持つ、のびやかで変化に富んだ空間。
●エントランスからつながる大開口窓を背にした薪ストーブのある土間空間。
●窓辺の田園風景へと開いたホームサウナを持つバスルーム。